レイモンドCEO ガウタム・ハリ・シンガニアが語る戦略と日本企業への示唆
インドの伝統的な繊維・アパレル企業 Raymond Ltd.(レイモンド) の取締役会議長兼マネージング・ディレクター、ガウタム・ハリ・シンガニア氏は、2026年2月開催の ET Great India Retail Summit で同社の戦略について語り、国内消費市場を重視する姿勢を明確にした。シンガニア氏は「なぜ世界へ行きたいのか。最も大きな消費人口があるここ(インド)で勝つべきだ」と話し、インド市場を主戦場と位置付ける戦略を示した。
■ 「Win India First」 — 国内市場を優先する理由
シンガニア氏は、グローバル展開についてこう述べている。
英国や欧州で象徴的に存在感を示すことより、国内市場での深い浸透が先決
多大な資本と時間を要する国際ブランディングには慎重
インドの巨大な消費人口を最大限活用することが企業成長の核心
この発言は単なる感想ではなく、実際に Raymond が国内・中東市場中心の事業ポートフォリオを構築している現実に即している。
■ 統合型ビジネスモデルと拡大戦略
Raymond の強みは、ファブリックからガーメントまで一貫した垂直統合モデル だという。これは単なる価格競争力ではなく、デザイン・素材・製造・販売までを統合する「フルパッケージサービス」によって、取引先を単なる顧客ではなく “戦略的パートナー” として位置付けることを可能にする。
同社は過去3年間で事業ポートフォリオを整理し、売上の大部分をもたらす上位顧客に資源を集中させる戦略も取っている。結果として 世界第3位の縫製製造能力(年間約700万着)を有するメーカーに成長 したが、ブランド戦略としてのグローバル志向は後回しにしている。
■ 貿易協定と国際市場の「逆輸入」機会
シンガニア氏は、英国やEUとの自由貿易協定(FTA)についても言及し、日本企業にとっても示唆深い発想を示した。
FTAによって英国製品がインド消費者にとって安価になる
同時に インド企業は英国市場へのアクセスを得る機会も広がる
つまり単純な輸出戦略ではなく、インド国内で消費財競争力を高めつつ、貿易協定を通じて市場アクセスを確保する“両面戦略” である。
■ 日本企業にとっての含意
① 国内市場優先の意義
シンガニア氏の戦略は、日本企業が従来とってきた
まず海外(欧米)でブランド認知を高め、
それからアジアへ展開する
という順序とは対照的だ。インドは人口規模、増加する中間所得層、デジタル購買基盤の拡大によって、国内市場ファーストの価値を実証している。これは日本企業が現地戦略を検討する際の重要な示唆となる。
② 統合型ビジネスとの親和性
日本の大手アパレルOEM企業、繊維メーカー、素材企業は、サプライチェーン全体の連携強化やデジタル投資を進める過程で、統合的な価値提供モデルの必要性に直面している。
Raymond のような垂直統合モデルは、価格競争を超えてブランド価値を高める手法として参考になる。
③ 貿易協定を活用した「逆輸出・逆輸入」戦略
インドがFTAによって欧州・英国市場へのアクセスを広げていく動きは、日本企業にも取引機会を提供している。たとえば:
日本発の高機能繊維・素材をインドで加工し、
欧州市場や第三国へ輸出するモデル
といった柔軟なサプライチェーン設計が可能になる。
まとめ:深い内需と統合戦略の重層性
ガウタム・ハリ・シンガニアが明言する「インド市場優先主義(Win India First)」は、単なる国内市場への投資方針にとどまらない。
それは
巨大消費市場のポテンシャルを最大化すること
統合された素材・生産・販売モデルによる価値提供
FTAを含む国際取引構造の賢い活用
という三重の戦略を伴っている。
この戦略は、日本企業がインドや他の新興市場で考えるべき ブランド価値創出とサプライチェーン設計の新たなパラダイム であり、グローバル進出のタイミングや展開順序を見直す際の重要な指標となるだろう。